和歌と俳句

加藤楸邨

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耳の下疣かなしめば年立ちぬ

爪のいろうつくしきかな冬月さす

燭とつて春寒き影曳かんとす

啓蟄のなほ鬱として音もなし

粥腹の木の芽に向くやまぶしけれ

つきつめて草餅の香となりにけり

蝌蚪の群焦土に子等置きにけり

田螺とり日本の飢深くなりぬ

大いなる雪解の中に生きて逢ひぬ

春の雲石の机は照りかげる

闇市に隣る野授業雁帰る

春の雁家ほしき顔ばかりなり

米尽きし厨に春の没日かな

雁かへる夜や生きてゐし顔二つ

春愁の釦の一つ色ちがふ

人去りし春燈何にまたたくや

茶の泡に春夕焼のとどまらず

飢ふかき一日は垂れにけり

鼠等も飢ゑてしたしき春の闇

幾万の飢つのる目ぞ

燕の子仰いで子等に痩せられぬ

煎豆をかぞへかみつつ更衣

苺くふねがひも過ぎぬ土乾く

新茶よりはじまるけふの空腹か

雲うごき空腹うごき桐の花