和歌と俳句

春の雲

今植し桜や世々の春の雲 也有

鳥声を呑て地に有春の雲 暁台

雨晴れて南山春の雲を吐く 漱石

春の雲峰をはなれて流れけり 漱石

牧水
春の雲 しづかにゆけり わがこころ 静かに泣けり 何をおもふや

晶子
春の雲 赤くたなびく 津の国の 四天王寺の 塔の上より

濁り江に春の白雲映りけり 草城

望郷のゆふべや春の雲染まる 草城

暮れゆくや浮びて遠き春の雲 万太郎

加茂川の風の荒さや春の雲 石鼎

藪の穂に影落ちてある春の雲 石鼎

高原や朝からうつる春の雲 石鼎

波除に隠れむとする春の雲 風生

白鳥のとび行く空の春の雲 素十

春の雲荼毘の煙を染めてゆく 月二郎

春の雲うごかず舟のすゝみけり かな女

土手の木の根元に遠き春の雲 草田男

宝石の大塊のごと春の雲 虚子

春の雲色かはりつつながれけり 石鼎

母の忌の御空の春の雲仰ぐ 茅舎

春の雲眺めひねもす玻璃戸中 茅舎

春雲は棚曳き機婦は織り止めず 虚子

大山はナポレオン帽春の雲 茅舎

おほどかに日を遮りぬ春の雲 虚子

春の雲しろきままにて降りだしぬ 彷徨子

荘番の客と見上げて春の雲 汀女

江上にかたちづくれる春の雲 風生

吾子の歌大春雲を載せかへる 楸邨

蓼科に春の雲動きをり 虚子

春雲のかげを斑に浅間山 普羅

茂吉
しづかなる 空にもあるか 春雲の たなびく極み 鳥海が見ゆ

八一
すゐれんの うきはまだしき いくはちの みずにかがよふ はるのしらくも

春の雲石の机は照りかげる 楸邨

春の雲いま磔像を舁きのぼる 青邨

電柱が今建ち春の雲集ふ 三鬼

薄く刷き薄く刷き消え春の雲 立子

行かよふ春雲堰きてわが居とす 節子

梨棚の下に遠くに春の雲 風生

春の雲とびゐる戦場ヶ原かな 青畝

春の雲追ふ心あり上京す 青畝

次に著く駅は横浜春の雲 立子

春の雲愁ひをふくみひろごりぬ 風生