和歌と俳句

加藤楸邨

花棕櫚の雨より遠き月日かな

吾子の歌大春雲を載せかへる

青き青き木の芽の数や爆音下

槻若葉雫しやまずいつまでも

東京の薺摘みくふなつかしく

絨毯を踏むやまつたく春の雨

蟇あるく大きくゆるく爆音下

子を呼べば妻が来てをり五月尽

美しきや月さしゐたりけり

空梅雨の朱き月夜と書きおくる

青嵐文字歩きくる如くなり

褪せはてし写真の祖母や蛍籠

蛍籠軍靴さくさくさくさくと

明易き葉がささげたる青蛙

鰺くふや夜はうごかぬ雲ばかり

遠雷や枝蛙より色はなれ

暁や夏雲の端のとびちぎれ

水無月の雲の耳より月うまる

水打つて広重の空はじまりぬ

天の川大槻に風吹きこもる

遠き日のことのごとしや夕焼け

影曳いて月夜ののゆくところ

白萩の揺れかはりたる一枝かな

祭笛駅夫が鳴らす霧の中

唐黍秩父にありし一日かな