落葉よりあるひはピアノ早かりき
寒木瓜に常の顔なるわかれかな
寒木瓜のほとりにつもる月日かな
春鮒の手につめたしや赤彦忌
春の風邪机の果の没日かな
猫柳暮れてゆくなりいつまでも
四万川にぐわらりと春の氷柱かな
春の炉や母の茶に侍す峡の朝
奥四万や落石はしる雪の上
どこやらの硝子がわれぬ桐の花
花合歓やその名も果は忘るべし
さえざえと水密桃の夜明かな
青き夜空かぎり知られず桐の花
北の涯のその霧の夜につづく梅雨
蜩や雲のとざせる伊達郡
つまだちて見るふるさとは喜雨の中
斑猫の昼の月よりくだるかな
蚊帳いろにうすうすながれ天の川
ひとつゐる鵜に炎日のすさまじき
味噌汁の月山筍のかほりかな
蜩やここより径は南谷
またあとに鵙は火を吐くばかりなり
遠く来て留守の萩より征きたりき
鵙の舌焔のごとく征かんとす
鰯雲流るるよりも静かに征く