蜩やどの道も町へ下りてゐる 亞浪
かなかな遠くなりぬ虎杖の路 亞浪
かなかなに旅人われを思ふ昏し 亞浪
かなかなや皆苔つけて杉木立 石鼎
蜩や茂みの中は古き池 喜舟
茂吉
あかつきの いまだ暗きに 蜩は ときのま鳴きて うつりけるらし
茂吉
かなかなの 暁に鳴く こゑ聞けば 現世のものは あはれなりけり
蜩やいつしか園の径ならず 風生
かなかなないてひとりである 山頭火
ひぐらしやあちこち灯る山がゝり 草城
ひぐらしや僧にも逢はず寺の庭 草城
蜩の鳴きしと思ふたちどまる 風生
白秋
東山野 この夕はじめて きく聲の 茅蜩のこゑは 竹にとほれり
白秋
月すでに のぼりて淡き 黄のしめり 茅蜩のこゑぞ 森にとほれる
白秋
うち向ふ 竹の林の 夕じめり ひぐらしのこゑを ひとり聴きゐる
温泉の宿や蜩鳴きて飯となる 虚子
いそいでもどるかなかなかなかな 山頭火
暮れてなほ田草とるかなかな 山頭火
ゆふ雲のうつくしさはかなかなないて 山頭火
ひぐらしのなきて元禄屋敷かな 万太郎
蜩よ、私は私の寝床を持つてゐる 山頭火
御馳走すつかりこしらへて待つ蜩 山頭火
道筋はおまつりの水うつてあるかなかな 山頭火
うらは蜩の、なんとよい風呂かげん 山頭火
かなかな、かなかな、おまつりの夜があける 山頭火
ながい豆も峠茶屋のかなかな 山頭火
水音のかなかなの明けてくる 山頭火
山のまろさは蜩がなき 山頭火
あすのあさの水くんでおくかなかな 山頭火
うら山は墓が見えるかなかな 山頭火
かなかなゆふ飯がおそい山の宿 山頭火
朝の水音のかなかな 山頭火
はるかにかなかなの山の明けたいろ 山頭火
この山里にも泊るところはあるかなかな 山頭火
かなかなや夕焼の濃さにつれて啼く 石鼎
関こえて朝ひぐらしの丘いくつ 秋櫻子
蜩や奥の青嶺にうちひびき 秋櫻子
蜩に家より早き夕餉かな 汀女
蜩に母の姿を追ひあそび 汀女
ひぐらしやうごかぬ水が暮れてゐる 草城
蜩や杉本寺のあさゆふべ たかし
かなかなや日は沈みゆく防雪林 青邨
かなかなの鳴きかはしつつ遠のきぬ 蕪城
一陣のひぐらし鳴く音おこるなり 草田男
蜩のなき代りしははるかかな 草田男