和歌と俳句

種田山頭火

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死にたい草の枯れようとして

秋蠅、それを打ち殺すのか

御飯のしろさぬくさが手から手へ

めいめいのこと考へてゐる灰皿をまんなかに

ゆふべいろづいたがおちさうな

なんとなくなつかしいもののかげが月あかり

さみしさのやりどころないの落ちる

郵便やさんたより持つて来て熟柿たべてゆく

けさから旅の草鞋はく蕎麦の花が白く

夜あけ米とぐみぞそばのさいてゐるところ

秋雨の汽車にけむりがしいろいひびき

てふてふひらりと萩をくぐつて青空へ

うらからきてくれて草の実だらけ

たまたま人が来ると熟柿をもぐと

風の日を犬とゐて犬の表情

生きものみんな日向へ出てゐて秋風

寝床へ日がさす柿の葉や萱の穂や

何か足らないものがある落葉する

やつと郵便がきてそれから熟柿がおちるだけ

百舌鳥のするどくその葉のちるや

熟柿のあまさもおばあさんのおもかげ

南天の実のいろづくもうそさむい朝

空はゆたかな柿のうれたる風のいろ

枯草あたたかう犬は戻つてきてゐる

こころむなしく日向をあるく

もいではすする熟柿のぬくとさは

空のふかさへ変電所の直角形

あかるくするどく百舌鳥はてつぺんに

みごもつてよろめいてこhろぎのいのち

日向ぼつこはなごやかな木の葉ちつてくる

ゆふかぜのお地蔵さまのおててに木の実

日かげいつか月かげとなり木かげ

空が風が秋ふかうなる変電所の直角形

柿落葉そのままそれでよい日向

米をとぐ手のひえびえと秋

熟柿もぐとて空のふかさよ

病めるからだをよこたへて風を聴くなり

秋もをはりの日だまりのてふてふとわたくし

茂るまゝにして枯れるまゝにして雑草

みんないつしよに茸狩すると妹の白髪

落葉ふかぶかと茸はしめやかにある

秋風のふく壁土のおちること

つかれてかへつてきて茶の花

伸きのびてゐて唐辛赤うなる

すすきをばなもうららかにちるや

まいてまびいてつけてきざんでかみしめてゐる

水は秋のいろふかく魚はういてあたまさへそろへ

柿が赤くて住めば住まれる家の木として

みんな働らく刈田のひろびろとして

あぜ豆もそばっめつきり大根ふとつた

たつた一つの、もぎのこされた熟柿をもがう

垣も茶の木で咲いてゐますね

秋もをはりの夜風の虫はとほくちかく