貝寄風に乗りて帰郷の船迅し
土手の木の根元に遠き春の雲
夕桜あの家この家に琴鳴りて
夕桜城の石崖裾濃なる
春の月城の北には北斗星
春山にかの襞は斯くありしかな
そら豆の花の黒き目数知れず
春の日はササの葉なりに藪に降る
焼跡のここが真中の春日差
啓蟄の運動場と焦土のみ
焼跡や雀雲雀の声遠し
昔日の春愁の場木々伸びて
ふるさとの春暁にある厠かな
橙は実を垂れ時計はカチカチと
町空のつばくらめのみ新しや
花の窓営所へ兵の帰る見ゆ
父の墓に母額づきぬ音もなし
ははそはの母と歩むや遍路来る
坂に来て突くや遍路の杖白し
布浅黄女人遍路の髪掩ふ
青もかち紫も勝つ物芽かな
春草は足の短き犬に萌ゆ
鶯のけはひ興りて鳴きにけり
鶯の一つの声の向ふ山
とらへたる蝶の足がきのにほひかな