和歌と俳句

中村草田男

長子

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十ツ分の休みのけなさ蜆蝶

虻生れて晴れて教師も昼餉待つ

入学試験幼き頸の溝ふかく

冨家の子の作文春愁ただ哀れ

人々に四つ角ひろき薄暑かな

たかんなの影は竹より濃かりけり

筍の鋒高し星生る

片虹といふべきの久しくも

あらましを閉ざせしのみの夕牡丹

田を植ゑるしづかな音へ出でにけり

涼風のつよければ倚る柱かな

前向ける雀は白し朝ぐもり

夏雲にただ真白な山の池

家を出て手を引かれたるかな

宵に睡て又目の醒めし祭かな

負はれたる子供が高し星祭

七夕や男の髪も漆黒に

軒つゞき縁つゞきなり星祭

翡翠の飛ぶこと思ひ出しげなる

はつきりと翡翠色にとびにけり

翡翠の淵掠めしを見下しに

昼顔のまだ小輪の咲き亘る

昼顔や小屋は次第に遠ざかる

あかるさや蝸牛かたくかたくねむる