人麻呂歌集
一年に七日の夜のみ逢ふ人の恋も過ぎねば夜は更けゆくも
古今集 素性法師
こよひこむ人にはあらじ七夕の久しき程に待ちもこそすれ
貫之
大空は ひもなけれども たなばたを 思ひやりても ながめつるかな
後撰集 貫之
朝門あけてながめやすらんたなばたはあかぬ別の空を恋ひつつ
拾遺集 貫之
たなはたにぬぎてかしつる唐衣いとど涙に袖やぬるらん
拾遺集 貫之
ひととせにひとよとおもへどたなばたのあひ見む秋の限なきかな
拾遺集 恵慶法師
いたづらにすぐる月日をたなばたのあふよのかずと思はましかば
拾遺集 元輔
いとどしくいも寝ざるらんと思ふかなけふのこよひにあへるたなばた
兼輔
七夕にわがかすものはまたもなし今宵ばかりのあはぬものなり
経信
なにとなき人だに秋は待たるるを七夕いかに日を数ふらむ
経信
いづれをか思ひますらむ七夕はあふ嬉しさとあはぬつらさと
金葉集 土佐内侍
よろづよに君ぞ見るべき七夕の行きあひの空を雲のうへにて
金葉集 能因
七夕の苔の衣を厭はずは人なみなみに貸しもしてまし
金葉集 宇治入道前太政大臣頼通
ちぎりけむ程は知らねど七夕のたえせぬ今日のあまの川風
国信
たなばたに かせる衣の 露けさに あかぬけしきを そらにしるかな
詞花集 顕輔
天の河よこぎる雲やたなばたのそらだきもののけぶりなるらん
千載集・哀傷歌 大納言実家
七夕にことしはかさぬ椎柴の袖しもことに露けかりけり
返し 三位右大臣
椎柴の露けき袖は七夕もかさぬにつけてあはれとや見ん
俊成
たなばたは雲の衣をひきかへし昨日やけふは恋ひしかるべき
俊成
七夕はうらめづらしく思ふらんこよひは雲の衣かへさで
俊成
七夕の絶えぬ契りをそへむとや羽をならぶる鵲の橋
教長
七夕の 暮を待つ間の 久しさと 明くる惜しさと いづれまされり
俊成
七夕の 舟路はさしも とをからじ など一年に ひとわたりする
西行
暮れぬめり今日待ちつけて七夕はうれしきにもや露こぼるらん
有家
七夕は今日貸す琴は何ならで逢ふにのみこそ心ひくらめ
定家
うらみをやたちそへつらむ七夕のあくればかへるくもの衣に
定家
たなばたのあひみる年はかさなれど馴るるほどなき天の羽衣
定家
七夕のあかぬわかれの涙にや秋しらつゆをおきはじむらむ
俊成
たなばたの逢ふ瀬をちかく思ふより秋のこころの空になるかな
実朝
夕されは秋風涼したなばたの天の羽衣たちや更ふらん
実朝
天の川霧たちわたる彦星の妻むかへ舟はやも漕がなん
七夕のあはぬこころや雨中天 芭蕉
たなばたや龝をさだむる夜のはじめ 芭蕉
七夕や葛ふく風は夜明から 也有
七夕やよみ哥聞に梶が茶屋 召波
七夕や藍屋の女肩に糸 召波
七夕や家中大かた妹と居す 太祇
七夕や涼しき上に湯につかる 一茶