花の色を惜しむ心はつきもせで袖はひとへにかはりぬるかな
咲き咲かず里分くかげをしるしとて月なきよひにさける卯の花
幾年の神のみ山に生ひぬらむ双葉に見ゆるあふひなれども
思ひねの夢路になのるほととぎすききあはすべき一声もがな
夏ごろもたもとのみかはあやめ草心にさへぞ今日はかかれる
水まさる山田のさなへ雨ふればみどりも深くなりにけるかな
五月雨は天の川原もかはるらむ八重立つ雲の浪の深さに
夕まぐれ花たちばなに吹く風にあはれは秋と思ひけるかな
やみといへばまづもえまさる蛍もや月になぐさむおもいなるらむ
さらでだにいぶせき宿ぞ蚊遣火にくゆる烟のたたぬよもなく
蓮葉の西にちぎりの深ければ上こす露に秋ぞうかべる
夏の日のてらすにこほる氷室山ことわりならぬ身をや恨みむ
掬ぶ手に岩もる水をせきとめて夏の日かずを過しつるかな
みそぎ川ながすあさじを吹く風に神のこころや靡き果つらむ
朝まだき霧はこめねどみむろ山秋のほのかに立ちにけるかな
たなばたのあひみる年はかさなれど馴るるほどなき天の羽衣
露分くる野原のはぎの花ずりは月さへそでにうつるなりけり
女郎花をるも惜まぬ白つゆのたまのかんざしいかさまにせむ