さならでも袖やはかわく山里のあらしの風のあかつきのこゑ
いかなりし梢なるらむ春日山まつのかはらぬいろを見るにも
小夜深きねざめにそよぐ呉竹やむかしも人の友となりけむ
苔もまたいたづらにてぞ老いにける巌の中も頼みなの世や
芦鶴のこれにつけても音をぞ鳴く吹きたえぬべき和歌の浦風
跡もがな尋ねてもみむ名にしおはばいにしへざまにかへる山かと
吉野河岩うつなみもよとともにさぞくだけけむ知る人はなし
宮城野のこの下露にくらべばや雨よりけなる袖のしづくを
人知れぬ歎きは須磨の関よただ我のみ越えて月日へぬれば
朽ちぬとも名は埋もれじあぢきなく跡もながらの橋を見るにも
人やりの道かはあやなわたの原かへる浪にはめのみ立ちつつ
草枕たびよりたびの心地して夢にみやこをほのかにぞ見む
わすれぬる日數をのみや歎かまし契るにかなふ命なりせば
誰にかは見せも聞かせももみぢ葉の散る山里のありあけの月
すこがもる山田のなるこ風吹けば己が夢をやおどろかすらむ
ふりにけるその水茎の跡ごとに人の心を見るぞかなしき
憂き世をば夢のうちにも思ひしれ我ならぬ身の心地やはする
はかなさのたとえと見ゆる稲妻の光もまたは照らしこそすれ
位山ふもとのゆきに埋もれて春のひかりを待つぞひさしき
よろづ世のひかりぞ袖に曇りなきはこやの山の峰の月かげ