和歌と俳句

和歌の浦

赤人
若の浦に潮満ち来れば潟をなみ葦辺をさして鶴鳴き渡る

古集
若の浦に白波立ちて沖つ風寒き夕は大和し思ほゆ

後拾遺集・雑歌 連敏法師
老いの波よせじと人はいとふともまつらむものをわかの浦には

源氏物語・若紫
寄る波の心も知らで和歌の浦に玉藻なびかんほどぞ浮きたる

千載集・雑歌 祝部成仲
ゆく年は浪とともにやかへるらんおもがはりせぬ和歌の浦かな

頼政
和歌の浦に たちのぼるなる 波の音は 越さるる身にも うれしとぞきく

頼政
いかにして たちのぼるらむ 越ゆべしと 思ひもよらぬ 和歌の浦波

清輔
和歌の浦に 年経てすみし あしたづの くもゐにのぼる けふのうれしさ

清輔
あしたづの 和歌の浦みて 過ぎつるに 飛び立つばかり 今ぞうれしき

清輔
はるばると いづち行くらむ 和歌の浦の 波路に消ゆる あまの釣舟

俊成
年だにも若の浦わのたづならば雲井をみつつ慰めてまし

俊成
わかの浦の波に年ふるもろ人も法の浮木に今日もあひぬる

俊成
わかの浦や浪にかきやるもしほ草これもよしなきすさびなりけり

新古今集・雑歌 慈円
和歌の浦に月の出しほのさすままによる啼く鶴の聲ぞかなしき

新古今集・雑歌 寂連
和歌の浦を松の葉ごしにながむれば梢によする海人の釣舟

寂蓮
いつもかは ふるきみなとを たづぬれば 遥かにつたふ 和歌の浦波

寂蓮
さかりなる 和歌の浦波 たちそひて めぐみもしるき 玉津嶋姫

定家
芦鶴のこれにつけても音をぞ鳴く吹きたえぬべき和歌の浦風

定家
たらちねの心をしれば和歌の浦や夜ふかきつるの声ぞ悲しき

俊成
沖つ波あはれをかけよ和歌の浦の風にたづさふたづのゆくすゑ

俊成
かきすつるあまのもしほの草枕こころぞとまる和歌の浦風

良経
和歌の浦の契もふかし藻鹽草しづまむよよを救へとぞおもふ

俊成
嬉しさぞ猶かぎりなき君が代に和歌の浦路の月をみるごと

定家
和歌の浦にかひなき藻屑かきつめて身さへ朽ちぬと思ひけるかな

俊成
和歌の浦の風にたちそふ友鶴の君が千歳に逢ふぞうれしき

定家
夜の鶴なく音ふりにし秋の霜ひとりぞほさぬわかのうらびと

定家
より来べきかたもなぎさのもしほ草かきつくしてしわかの浦波

定家
わかの浦に鳴きてふりにし霜の鶴このごろ見えつ心やすめて

定家
たらちねの及ばずとほき跡過ぎて道をきはむるわかのうら人

新勅撰集・秋 後堀河院御製
わかのうら あしべのたづの なくこゑに 夜わたる月の かげぞひさしき

続後撰集・雑歌 前太政大臣実氏
和歌の浦や しほひのかたに すむ千鳥 むかしの跡を みるもかしこし

芭蕉
行春にわかの浦にて追付たり

子規
親やしたふ子やしたふらん和歌の浦の蘆間かくれにたづぞなくなる

一葉
よし玉はひろはぬまでも和歌の浦の蛍をだにもとらんとぞおもふ

一葉
おりたちし和歌の浦わのあだ波に人の藻屑とならんとや見し

漱石
涼しさや蚊帳の中より和歌の浦

石鼎
初夏の和歌の浦とはなりにけり

石鼎
春雪や鶴棲みて舞ふ和歌の浦

立子
汽車窓に和歌の浦あり時雨れをり

和歌の浦あら南風鳶を雲にせり 蛇笏

水無月の雲斂りて和歌の浦 蛇笏

蕩蕩と旅の朝寝や和歌の浦 茅舎