和歌と俳句

藤原定家

院百首

石ばしる瀧あるはなのちぎりにてさそはばつらし春の山風

わくらばに通ふ心のかひもあらじ頼む吉野のかざしばかりは

音に立つるかけのたれ尾の誰ゆえか乱れてものは思ひ初めてし

秋の野にをばなかりふく宿よりも袖ほしわぶるけさの朝露

下紐のゆふ手もたゆきかひもなし忘るる草をきみやつけけむ

あけぬとけゆふつけどりの聲すなり誰か別れの袖濡らすらむ

ながめする今日も入相の鐘の音に過ぎ行く方を身に數へつつ

山里はなほ淋しとぞたちかへるあくれば急ぐ心やすまで

よそにのみみ山の杉のつれもなくもとの心はあらずなりつつ

それもうとし心なぐさむ海山は身のよるべとも思ひならはで

心からいきうしといひて帰るともいさめぬ関を出でぞ煩らふ

かきやれば煙たちそふもしほぐさあまのすさみに都こひつつ

浪まくら濱風しろくやどるつき袖のわかれのかたみがほなる

人もわかず山路しぐれて行く雲をともなふ嶺の袖のしづくは

玉ほこやたび行くひとはなべて見よ国さかへたる秋津しまかな

君が代の雨のうるひはひろけれど我ぞめぐみの身にあまりぬる

いかにして朽ちにし谷の木のもとに道ある御代の春をまちけむ

むらさきの色こきまでは知らざりき御代のはじめの天の羽衣

わかの浦に鳴きてふりにし霜の鶴このごろ見えつ心やすめて

祈りおきしわがhるさとの三笠山きみのしるべを猶思ふかな