色々に空より花ぞ散りまがふこれをや法の雨といふらん
今ぞこれいり日を見ても思ひこし彌陀の御國のゆふぐれの空
かへりくる玉のうてなも花のうちも光はおなじすみかなりけり
ふかき夜の光も聲もしづかにて月のみ顔をさやかにぞ見る
新古今集・釈教
いにしへのおのへの鐘に似たるかな岸うつ波のあかつきのこゑ
あけがたは池の蓮もひらくればたまの簾に風かほるなり
佛を見法を聞くべき身ならずはかかる汀をいかでふままし
残りなく照らす光にたづぬれば昔のこともくもらざりけり
入り難く悟り難しと聞く門をひらくは花のみのりなりけり
ゆくすゑの花の光の名をきくにかねてぞ春にあふここちする
子を思ふ道こそ聞けばうれしけれ心の闇もさとりはるなり
谷川や三の峡にやしづままし山路の月のをくらざりせば
わかの浦の波に年ふるもろ人も法の浮木に今日もあひぬる
うらやまし磯路の波にしほれてもかひある浦に廻りあひけん
とふ人のあとなき柴の庵にもさしくる月のひかりをぞ待つ
これもこれうき世のためと生まれきてかくはみのりをとくとこそ聞け
そでのうへの玉のひかりのほどもなく南の空の月とすむらん
かくばかり心はれける月影を姨捨山となに思ひけむ
さまざまに妙なる花ぞ散りまがふ法をたもてる春の夜のゆめ
すゑの世は雲のはるかにへだつとも照らさざらめや山の端の月
花の散り紅葉流る山河も人をわたさむためとこそきけ
ふたつなき道に心のすみぬれば思ふことみな法とこそきけ