たのむかな露の命のきゆる時蓮のうへにうつしをくなる
荒き海きびしき山のなかなれど妙なるこゑはへだてざりけり
ちかひけるこころのやがて海なれば人をわたすも煩ひもなし
うつつには更にも言はずぬる玉の夢のなかにもはなれやはする
われやこれ浮木にあへる亀ならん甲はふれども法はしらぬを
はるかなるそのあかつきを待たずとも空のけしきはみつべかりけり
ともづなは生死の岸にときすてて解脱の風に舟よそひせよ
露しもとむすべる罪の悔しさを思ひとくこそあさひなりけれ
春のはな秋のもみぢの散るもみよ色はむなしきものにぞありける
法の御名きえなん後のすゑまでも彌陀の教へぞ猶のこるべき
ほのかなる雲のあなたの笛の音も聞けば佛の御法なりけり
あさまだき露けき花を折るほどはたましく庭に玉ぞ散りける
新勅撰集
手折りつる花の露だにまだ干ぬに雲の幾重を過ぎてきぬらん
春のくる方をさしつるしるしにやこち吹く風に花の散るらん
はるかなる佛のみくにめぐりてもときのほどにぞ立ちかへりける
影きよき七重の植木移りきて瑠璃のとぼそも花かとぞみる
おりたちて世をすくへとや池水のあささふかさも心なるらん
くもりなき玉のうてなにのぼりてぞはるかなる世のこともみえける
たらちめのきますけしきにこの國も更に光はまさるなりけり
新勅撰集
しろたへに月か雪かとみえつるは西をさしける光なりけり
ゆふぐれのあはれたちそふ雲間より家をいでたる姿をぞみる
いにしへは静けき室にゆかたてて住みにし人にも逢い見つるかな