和歌と俳句

寂蓮法師

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汲む人は またいにしへに なりぬとも 野中の清水 思ひ忘るな

やはらぐる 光や空に 満ちぬらむ 雲にわけいる ちきのかたそぎ

ゆくへなき 霞の空を ながめきて 思ふもかなし 葛の裏風

誰もみな しのびしあとに まつかぜの 音のみ残る 秋の夕暮

余呉の海の こほりのはてに 舟とめて 浦路も遠き うきねをぞする

のどかなる はこやの山に はるばると 神と君との 契をぞ知る

このごろは やくものすゑの 言の葉に 思ひいづもの いにしへの空

よろづ代を まつ生ふる浜に 年ふりて 君がためにや 住吉の神

さかりなる 和歌の浦波 たちそひて めぐみもしるき 玉津嶋姫

あれはてし 池のみぎはも あやめ草 ひくにつけてぞ うち払ひける

あやめ草 けふひくあとに 見ゆるかな たておく石も 池の心も

あやめ草 けふひくあとぞ 池水に たておく石も ありとみえける

たづぬべき ゆくへも知らず ほととぎす とやまのおくの 雲にいるこゑ

常夏の 花にたまれる むらさめの 名残ぞ月は 見るべかりける

いかにして 鹿のたちどを しのぶらむ ともしの影は はやましげやま

すゑむすぶ となりの人や 待ちつらむ せく手にくぐる 山の井の水

といへば ちさとのほかも ひとつにて 霞をかぎる あけぼのの空

人知れぬ 淀野になれて あやめ草 しのばぬやどの つまをこふらむ

ありあけの 月は残れる ひかげにも まづかたぶくは 朝顔の花