和歌と俳句

寂蓮法師

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木の葉わけて 庭にたたずむ 鹿のみぞ みやこにうとき 友となりける

雲消ゆる 遠のやまもと 見渡せば 檜原は庭の 蓬なりけり

たちばなの 匂ひも今は みなづきに 思ひのきはの ほととぎすかな

降りそめて たえだえ見えし にはたづみ ひとつにつづく 五月雨の空

五月雨に 軒もおほろの 清水さへ 見しにもあらず おもがはりして

五月雨に むろのわたりを 見渡せば おりゐる雲ぞ 水際なりける

あま人よ いかにひかげを まつしまや 雄島が磯の 五月雨の空

五月雨に 御津の浜松 波かけて こずゑに残る 真野の浦風

ほととぎす かたまつ宵の 山の端に さもあらぬ月は はやく出でにけり

夢なれや 卯の花月夜 更くる夜の 垣根にしのぶ 鳥のひとこゑ

うぐひすの ふるすを告げし あとなれば 雲路より鳴く ほととぎすかな

したのおびの むすぶ氷に 手をかけて 空にぞうつる 弓張りの月