和歌と俳句

水無月

俊成
たづねみむ まぼろしもがな 郭公 ゆくゑもしらぬ みな月のそら

定家
今はとて 有明のかげの 槇の戸に さすがに惜しき 水無月の空

定家
みじか夜の 鵜川にのぼる かがり火の はやくすぎゆく 水無月の空

芭蕉
みな月はふくべうやみの暑かな

芭蕉
水無月や鯛はあれども塩くじら

芭蕉
六月や峯に雲置くあらし山

鬼貫
水無月や風にふかれにふる里へ

鬼貫
水無月や伏見の川の水の面

凡兆
水無月も鼻つきあはす数寄屋哉

子規
水無月の須磨の緑を御らんぜよ

赤彦
水無月の 曇りをおびて 日の沈む 空には山の 重なりあへり

晶子
中形の よき袂ふり 二町ほど ぬれぬれきぬる 水無月の雨

晶子
水無月の 那智の奥より 山の風 三熊野川の 川原菅ふく

牧水
一すぢの 糸の白雪 富士の嶺に 残るが哀し 水無月の天

牧水
水無月や 日は空に死し 干乾びし 朱でいのほのほ 阿蘇静に燃ゆ

牧水
けむりあり ほのかに白し 水無月の ゆふべうらがなし 野羊の鳴くあり

牧水
麦すでに 刈られしあとの 畑なかの 径を行きぬ 水無月ゆふべ

牧水
月いまだ ひかりを知らず 水無月の ゆふべはながし 汐の満ち来る

牧水
日を浴びて 野ずゑにとほく 低く見ゆ 涙をさそふ 水無月の山

宮沢賢治
桃青の 夏草の碑は みな月の 青き反射の なかにねむりき

牧水
水無月や 木木のみづ葉も くもり日も あをやかにして 友の恋しき