和歌と俳句

藤原俊成

秋きぬと聞くより袖に露ぞをく今年も半ばすぎぬと思へば

なにごとをわれなげくらむ星合の空を見るにもみつ涙かな

見るからに袖ぞ露けき世中を鶉鳴く野の秋萩の花

身のうさにえぞなづさはぬ女郎花はなの名をさへ折らじと思へば

うき世には門させりとや思ふらむ出でがてにする篠のをすすき

荻原や繁みにまじる刈萱のした葉が下に萎れはてぬる

藤袴あらしたちぬる色よりも砕けてものは我ぞかなしき

わが袖は荻の上葉の何なれやそよめくからに露こぼるらむ

かへりてはまた来る雁よ言とはむ己が常世もかくや住み憂き

千載集・雑歌
世の中よ道こそなけれ思ひいる山の奥にも鹿ぞなくなる

栞する楢の葉柴に散るのはらはらとこそ音は泣かれけれ

ゆふまぐれ霧立ちわたる鳥部山そこはかとなくものぞ悲しき

咲きてこそ消ゆとも消えめ露の間もあなうらやまし朝顔の花

東路や引きも休めぬ駒の足のややなづみぬる身にこそありけれ

なづさむと誰かいひけむ詠むればこそものは悲しかりけれ

長き夜を衣うつなる槌の音のやむときもなく物を思ふよ

千載集・秋
さりともと思ふ心も蟲の音も弱り果ぬる秋の暮かな

うき身にはあまりなるまで見ゆるかな匂ひみちたる宿の八重菊

嵐ふくみねの紅葉の日にそへてもろくなりゆくわが涙かな

うき身ゆへ何かは秋もとまるべき理なくも惜しみけるかな