和歌と俳句

花薄 薄の穂 尾花

古今集 平貞文
今よりはうゑてだにみじ 花すすき ほにいづる秋はわびしかりけり

古今集 在原棟梁
秋の野の草の袂か 花すすき ほにいでて招く袖と見ゆらん

貫之
まねくとて 来つるかひなく はなすすき 穂に出でて風の はかるなりけり

貫之
ふく風に なびく尾花を うちつけに まねく袖かと たのみけるかな

貫之
いつとても 人やは隠す はなすすき などか秋しも 穂には出づらむ

貫之
いでて訪ふ 人のなきかな はなすすき わればかりかと まねくなりけり

拾遺集・雑秋 貫之
こてふにもにたる物かな花すすきこひしき人に見すべかりけり

後撰集 小野道風
穂にはいでぬ いかにかせまし 花すすき 身を秋風に すてやはててん

後撰集 伊勢
やどもせに 植へなめつつぞ 我は見る 招く尾花に 人やとまると

信明
わたつ海の なきさの丘の 花薄 まねきぞ寄する 沖つ白波

好忠
招くとて たれもとまらぬ ものゆへに あはれ片寄る 花薄かな

後拾遺集 藤原経衡
さだめなき風のふかずば花すすき心となびく方はみてまし

後拾遺集 源師賢
さらでだに心のとまる秋の野にいとどもまねく花すすきかな

匡房
花薄 穂に出でてまねく ころしもぞ 過行く秋は とまらざりける

源俊頼
かきわけて まねく袖には むつるれど いふこともなき 花薄かな

源俊頼
花薄 まそほの糸を くりかけて たえずも人を 招きつるかな

源俊頼
まねけども うれしげもなし 花薄 風にしたがふ 心とおもへば

国信
花薄 こよひはしめぬ 秋風に けさしもなどか あさしめりする

源顕仲
潮風に なみよる浦の 花薄 しづくをはらふ 袖かとぞみる

仲実
風をいたみ うづらなく野の 花薄 われをまねくと 人やみるらむ

師時
ひとかたに なびかばなびけ 花薄 さこそは風の さだめなからめ

永縁
秋風に なびきなびきて 花薄 枯野にならむ ことをしぞ思ふ

隆源
花薄 まねくは袖と おぼえつつ 秋は野路こそ ゆかれざりけれ

京極関白家肥後
ゆふぎりの たえまにみゆる はなすすき ほのかにたれを まねくなるらむ

祐子内親王家紀伊
あきかぜに なびくをばなの ゆふまぐれ たがそでかとぞ あやまたれける

前斎宮河内
みちのへに まねくほばなに はかられて こよひもここに たびねをやせむ

千載集 法印静賢
秋来ぬと風もつげてし山里になほほのめかす花すゝきかな

千載集 道命法師
花すすきまねくはさがと知りながらとどまるものは心なりけり

頼政
あさせなき おほかはしまの 花すすき まねくと見れど えこそ渡らね

頼政
心にも あらでやまねく 花薄 あきのの風に そそのかされて

俊恵
はなすすき しげみがうちを わけゆけば 袂をこえて 鶉なくなり

俊恵
まねくだに うれしきものを はな芒 さのみはわれに なびくべしやは

俊成
花すすき 波よる野邊の 夕暮れは まがひぞわたる 駒のふり髪

季通
ふたたびと 招かれましや はなすすき われの身のへに みるめなりせば

西行
花すすき心あてにぞ分けて行くほの見し道のあとしなければ

西行
をしむ夜の月にならひて有明のいらぬをまねく花薄かな

式子内親王
花薄まだ露深し穂に出てながめじと思ふ秋の盛を

俊成
過ぎがてにわれこそ見つれ花すすき招くは風になびくなりけり

俊成
はりまがた印南野の野邊の花すすきむらむらよする波かとぞみる

定家
皆人のこころにしのぶ秋の野を穂に出でてなびくはな薄かな

良経
ちなびく入江の尾花ほのみえてゆふな見まがふ真野の浦風

雅経
はなすすき なにとて秋を 待ちけらし しのびし程は 露かかりきや

定家
花すすき草の袂のつゆけさをすてて暮れ行くあきのつれなさ

実朝
虫のねもほのかになりぬ花薄秋のすゑはに霜やをくらむ

実朝
秋萩の花野のすすき露を重みをのれしほれてほにやいでなむ

新勅撰集・秋 權中納言長方
さらずとて ただにはすぎじ はなすすき まねかでひとの こころをも見よ

新勅撰集・秋 参議雅経
はなすすき くさのたもとを かりぞなく なみだのつゆや おきどころなき

新勅撰集・雑歌 よみ人しらず
あきかぜの こころもしらず はなすすき そらにむすべる ひとはたれぞも

新勅撰集・雑歌 実方朝臣
かぜのまに たれむすびけん はなすすき うはばのつゆも こころおくらし