和歌と俳句

無月

月のみか雨に相撲もなかりけり 芭蕉

藻を刈つて淋しき沼の無月かな 鬼城

川上は無月の水の高さかな 鬼城

門燈に見えし無月の影法師 花蓑

燈明をつけて無月の供へ物 花蓑

灯火の明き無月の庵かな 虚子

遠めいて無月の灯あり寺なれや 青畝

炎々と燃ゆる無月の竃かな 月二郎

寄らで過ぐ港明るき無月かな 草城

襟脚の灯影に浮ぶ無月かな 草城

たづさふる手のあたゝかき無月かな 草城

繋がれしまゝに無月の池の舟 花蓑

いくたびも無月の庭に出でにけり 風生

門の灯をそがひに立ちし無月かな 石鼎

生籬に添うて道ゆく無月かな 石鼎

はし借りて腰かけてゐる無月かな 青畝

ガラス越し雨がとびつく無月かな 青畝

雨に登る音楽堂は無月なり かな女

一壺酒に仲秋無月なるもよし 麦南

ランプ吊る無月の舟の客の中 青畝

吊ランプゆれて無月の舟過ぐる 青畝

靴の音ややさしく来たる無月かな 草城

竃の火うつる無月の潦 みどり女

軒行燈火を入れに来る無月かな 青邨

欄干によりて無月の隅田川 虚子

卓上の梨もぶだうも無月かな 万太郎

筌積んで船頭の漕ぐ無月かな 青畝

せんだんの木のありやうの無月かな 槐太

棕櫚を揉む風となりたる無月かな 信子

母ねむり無月の空のあかるけれ 信子

滑川海よりつゞく無月かな 万太郎

筆硯の用意無月の集ひかな 虚子

縁さきに萩波うてる無月かな 万太郎

無月の浜白浪ありてさびしからず 林火

水こえてくる風しろき無月かな 万太郎

天神の崖の下みち無月かな 万太郎

無月なり芒惜しまず患者たち 波郷

浄瑠璃の声割れてゆく無月かな 林火

ずんだ餅あはきあをさの無月かな 林火