日野草城
寄らで過ぐ港明るき無月かな
襟脚の灯影に浮ぶ無月かな
十六夜や石にたぐひて亀の甲
十六夜やすいすいとして竹の幹
なつかしや後の月夜の早火鉢
物の怪に吠え立つ犬や後の月
まらうどに後の月夜の風呂沸きぬ
後の月寺領は黍の不作かな
湯ざめして君のくさめや十三夜
砂山をのぼりくだりや星月夜
相語る星ちらちらや星月夜
玻璃盞の相触れて鳴る星月夜
天の川寥廓として風露かな
俳諧に惑はず銀河南北に
盞を乾せ銀漢描く弧の形
銀漢や露営人出て歩きゐる
銀漢や酔余の漫歩とどまらず
銀漢や大廈まだ寝ぬ窓一つ
籐椅子のここにも一つ天の川
湯崎の灯見えて儚なし天の川