日野草城
植込を移る日影や秋の庭
生垣の外は夕日や秋の庭
秋の庭思ひ沈めば昃るなり
人散りて秋苑に句を案じけり
秋苑や草木静かに人動く
なつかしく鹿に逢ひけり夜の町
雁鳴いてひしひし夜の心かな
かりがねや閨の灯を消す静心
かりがねや重たうなりし膝枕
かりがねや眠り弛みに妻の脣
雁聴くや更けし灯を守りゐて
夕栄に起ちさざめけり稲雀
追ふ声のあはれに暮るれ稲雀
きつつきの幹移りして暮れすすむ
邸内に在る一藪や夕の鵙
けぶり来し夕藪に鳴く鵙一つ
秋つばめ名残の糞を落しけり
江畔居燕帰つてよりの雨
物を干す白き腕や渡り鳥