日野草城
きのこ飯ほこほことして盛られたる
過ちし柚釜ころげてとどまらず
うちひらく白妙寒し秋扇
秋扇二本閑居す小抽斗
帯解くや秋扇落ちて音疎し
淪落の底の安堵や秋袷
熟睡して白き面輪や秋の蚊帳
古蚊帳の別れとなりて恙かな
うらぶれて釣るや雨夜の九月蚊帳
きぬぎぬや青さ眼にしむ九月蚊帳
砧打二人となりし話声
ほとほとと砧たたけば愁湧く
嫂とよくうまのあふ砧かな
冷え性の蓆重ねて砧かな
後れ毛をふるはせて打つ砧かな
縁遠き姉妹二挺砧かな
縄尻を控へて縫へり鳴子引
如意ヶ嶽を去らぬ雲影稲を刈る
日かげりて愁ふる稲を刈りにけり
稲刈やわが家灯りて夕心