三味ひけば雨ふる春の忌日かな
春の笠二つ惟然と芭蕉かな
初午の月の月番あたりけり
本町の母の里なり一の午
はつ午や宵にとどくる仕立もの
峰の色壁の色なる餘寒かな
海苔買ふや寄席の行燈に灯入りけり
梅は春塔に浅かる嵐かな
雛の間へまがりて長き廊下かな
猿澤の蛙はきかじ薪能
摘草や母み佛の月一つ
浮草に根が生えかねし長閑かな
長閑なるものに又なき命かな
蓬餅古き印譜の朱ずれかな
櫻餅千住の花の菓子屋かな
櫻餅言問は遠き身寄かな
櫻もち籠を流せば鴎かな
春暁のあけきればまた曇りけり
春宵の花の渡舟が残りけり
春宵や屋根から上の花の闇
雛の間の欄下の汐も乾きたり
石床に菫咲いたるあはれなり
假名書の御経と答へ朧かな
花散るやかがみのなかの障子口
品川のとつつき茶屋や遅櫻