和歌と俳句

久保田万太郎

元日の夕べ客なきまとゐかな

初鴉蔵のうしろの闇夜かな

獅子舞のきて昼ちかくなりにけり

縫初や人手にかけぬ母の衣

縫初のやがて午なる礼者かな

元日や羽子のいとまを母の側

元日や隅田の宿の枯柳

松納昼餉の鯛の料理かな

松とれて暮れたる店の行燈かな

松過ぎの大阪人のたよりかな

鳥追の買うてゆきけり宝舟

信心の月のあかさや寒まゐり

仲見世のかゝる月夜や寒詣

矢の倉の路地より来つれ寒詣

年立つや音なし川は闇の中

元日や柳さくらの舞扇

はつ雀やぶうぐひすのゆくへかな

雪空のまゝ明けにけり初雀

からよみの歌のこゝろもかるたかな

年々に古りゆく恋や歌かるた

酔い痴れて庵主もどりぬ歌がるた

七草や夕かたまけて雪となり