和歌と俳句

久保田万太郎

去年今年一としほ雪のつもりけり

年の禍元日すでにひそみけり

波音のなかに元日おはりけり

はつ鶏やひそかにたかき波の音

つれだつとより寄添へる春著かな

羽子日和さがす番地のまだ知れず

羽子日和、海、江の島をうかべけり

羽子板の鷺とからすの衣装かな

かまくらに不二つまらなき二日かな

ふっつりと波の音たえし二日かな

三日はや雲おほき日となりにけり

三日はや四ッ手下りたる滑川

まゆ玉にたちきりがたきうれひあり

松すぎのはやくも今日といふ日かな

老木の根元日きよく掃かれけり

はつごよみはやあけそめし夜なりけり

二日はやつねの波よせゐたりけり

まゆ玉に小判なにかと光りけり

正月のはやくも喪服著たりけり

雪さそふ風に著てたつ春著かな

読初や露伴全集はや五巻

はつ夢やおぼえてゐたきこと一つ

まゆ玉や人のこゝろの照りかげり