和歌と俳句

久保田万太郎

元日やふとしく立てる枯榎

はつ空にうかべる雲のめでたさよ

年々歳々花相似たり初芝居

歳々年々人同じからず初芝居

貧乏も師匠ゆづりや小豆粥

しろきものおちてきたりぬ去年今年

元日のつぶやき寒しオルゴール

三ヶ日わざとよけたる年賀かな

ひそと来てひそと去りたる礼者かな

とぢ絲のいろわかくさやはつ暦

七十のいのちあたらしはつ暦

輪かざりやなまじやみたる三ヶ日

初日記いのちかなしとしるしけり

何くれとなきしんせつやなづな粥

初場所やむかし大砲萬右衛門

年々の酔ひどれ礼者待つほどに

たそがれの雪の礼者となりにけり

萬歳や年のはじめの夕まぐれ

書初や平仮名一人一字づつ

酔ふほどに十日戎のはなしなど

まゆ玉やともれば慕ふおのが影

まゆ玉のしだれのかげにひそむ神