和歌と俳句

久保田万太郎

元日や海よりひくき小松原

はつそらのたまたま月をのこしけり

をりからの雪にうけたる破魔矢かな

また一つ年をとりたる春著かな

つゝましき立居になれし春著かな

あらたまの春著に著かへ用のなき

沖かけて波一つなき二日かな

弾初や濱の松風ひゞく中

初芝居のびし初日のあきにけり

初芝居、雪、舞台にもふりにけり

まゆ玉のことしの運をしだれける

一月や風にあけたる山の襞

一月やうす日さしくる障子かな

一月や波除こゆるなみしぶき

戸田橋の不二正月もなかばかな

元日や山ふところの麦ばたけ

元日の端山に立てる烟かな

獅子舞やあの山越えむ獅子の耳

一ときのあられにくらき二日かな

はつゆめのせめては末のよかりけり

七草の雨あたゝかや伊豆を発つ

ともづなのつかりし水や松の内