和歌と俳句

秋元不死男

元日の獄や歩まぬけふ昏れて

海苔拾ふ元日の脛波立たす

星降りて水田にこぞる去年今年

ペンうれしペン始め黄の原稿紙

葱すいと割いて庖丁始めかな

馬に逢ひ年酒の酔の発しけり

銀色の失名賀状妻に来し

水中に啼く声沈む初鴉

雪のお降りすべすべと湯治妻

読初の相聞訛る東歌

元日の夜を流木の谿泊り

細帯の正月妻といふべしや

正月を月下美人のつめたき葉

旅を旅して読初の芭蕉伝

庖丁始せりせり飛んで鮒鱗

踏みはづし片羽根をつく初鴉

鯛の彩うつる庖丁始かな

煙草火に指ぬくめて去年今年

初夢に一寸法師流れけり

初湯出て草木染着る嫗かな

炉の上を嬶座とのぞく嫁が君

一天に一滴もなき梯子乗り

聖き名の留学生の雑煮箸