和歌と俳句

秋元不死男

青果散り日覆からからと商区覚む

機首掠め断崖の百合を鋭く立たす

夏山の起伏はるかに飛機あがる

機翼墜つ野路に蜥蜴が出でて隠れ

飛機墜ちぬトマト畠に茄子畑に

給水船川口に錆び海月くる

路次に鳴り目醒時計猛る夏の暁

驟雨が来波間の少女色かはる

梅雨の奥深夜砲声沖よりす

雨期ちかし英霊還る路次の湿り

梅雨の街青年の喇叭夜夜はげしく

病舎の夏少年膝を曲げて寝る

百日紅出征の花火突と鳴り

子を殴ちしながき一瞬天の

疎んずる蚊帳の妻と子雷遠し

駈けめぐり土光るなり五月なり

梅雨けふも獄の大塀そそり立つ

二時灼けて父もきく獄に棲み

蝉やんで獄の七月けふも昏れぬ

朝よりの夏雲に描く子の笑眉

たてがみが出てきて街の夏光る

蚤跡や房鎖しいそぐ高射砲

獄にきく水槽便所が暑夜の堰