和歌と俳句

秋元不死男

梅雨雀父母に遺言なかりけり

寝顔背にのせて漂ふ白鳥の夏

糊つよき浴衣しゃっくりいつとまる

丸太に乗つて昼顔ひらく茅舎の忌

水を大事に摺足の金魚売

偽死で甘えて妻へ仰向く黄金蟲

日を吸うて赤くなる芸梅干され

夏霧や御師飼ふ鳩の寝てばかり

御師古りて瑞の藁屋根ほととぎす

すつくと百合霧に育ちて山の子よ

山鳩の身近に鳴いて臍涼し

欠伸しての声吸ふ峰泊り

老鶯や眼鏡に賜る青谺

夏峰泊り一善も一悪もなく

葉ざくらや活字大きな童話本

師弟かと見る兜虫倒し合ふ

橋に乗るかなしき道を道をしへ

三猿の語のひびくかな雲の峰

指入れて齢の沁みる山泉

や妻とくらべる観世縒

富士ぐもり葭切は舌使ふ声

三日泳がぬ山中の鯉のぼり

つよきもの欲ればみしみしきたる

草むらに置く深窓の蛍籠