和歌と俳句

兜虫 かぶとむし さいかち

ひつぱれる糸まつすぐや甲虫 素十

糸足にからまり溜り甲虫 素十

土つけし甲虫さへ家に匐ふ 誓子

いづこへか兜蟲やり登校す 汀女

兜虫漆黒なり吾汗ばめる 波郷

兜虫障子のぼりつめ月出でたり 楸邨

兜虫黒き光を放ち歩む 杞陽

兜虫視野をよこぎる戦死報 楸邨

兜虫み空を兜捧げ飛び 茅舎

書庫守の朱に塗り放つ兜虫 草田男

兜虫障子を鳴らす吾子寝ねて 楸邨

甲虫のやはらかき翅なほ余る 誓子

鴨居先づ打つて入り来し兜虫 杞陽

すはだかの子が甲虫を角で持つ 誓子

兜虫繋がれしまま明けて居り 知世子

茂吉
水の上に ほしいままなる 甲蟲の やすらふさまも 心ひきたり

兜虫白雲玻璃の外をゆく 楸邨

灯ともせば玻璃かきむしり兜虫 楸邨

甲虫縛され忘れられてあり 三鬼

兜虫一角風を切つてとぶ 誓子

兜虫なかなかに死なざる故郷 耕衣

兜蟲道標のもとにひとり死す 波郷

甲虫しゆうしゆう啼くをもてあそぶ 多佳子

夜空から「ペトロの左手」へ甲虫 草田男

縛されて念力光る兜蟲 不死男

似てゐるさびしさ兜虫ふたつゆき逢へり 楸邨

火事終へてあるきゐたりし兜虫 楸邨

闘ひの構へ愛にも兜虫 悌二郎

師弟かと見る兜虫倒し合ふ 不死男