和歌と俳句

茄子 なす なすび

川ざこや紫くぐる茄子汁 来山

聞なれて今はさもなしなすび買 来山

めづらしや山をいで羽の初茄子 芭蕉

ちさはまだ青ばながらになすび汁 芭蕉

うれしさよ鬼灯ほどに初茄子 涼菟

茄子ありこゝ武蔵野の這入口 召波

水桶にうなづきあふや瓜茄子 蕪村

物に飽くこゝろ耻かし茄子汁 太祇

生て世にひとの年忌や初茄子 几董

恙なく帰るや茄子も一年目 子規

茄子汁に村の者よる忌日哉 子規

糠味噌にと茄子の契かな 子規

茄子汁主人好めば今日も今日も 虚子

白秋
赤茄子は 麦藁帽を 裏向けて 受けてかかへつ こぼれひかるまで

晶子
くろぐろと鉄をよそほひ生りいでし茄子を打ちぬあけがたの雨

茄子汁の汁のうすさや山の寺 鬼城

手燭して茄子漬け居る庵主かな 鬼城

茄子もぐ手また夕闇に現れし 禅寺洞

漬茄子の一夜を惜む紫紺かな 草城

糠味噌へ陥る茄子の紺可惜 草城

初生りの紫紺かしこき茄子かな 草城

洗ふ茄子と洗ひし茄子と籠二つ 石鼎

茄子の艶紫水をはじきけり 石鼎

茄子もいできてぎしぎし洗ふ 放哉

茄子の藍に染まりし膝をかくしつゝ かな女

茄子もぐや日を照りかへす櫛のみね 久女

月に出て水やる音す茄子畠 久女

茄子もげば雲がひらひら夕焼けて 鴻村

採る茄子の手籠にきゆあとなきにけり 蛇笏

目にしみて炉煙はけず茄子の汁 久女

茄子買ふや框濡らして数へつつ 久女

茄子もぐけはひは靄の不可視界 茅舎

茄子汁の香に久濶の何も彼も 茅舎

茄子育ちトマトは君に枯れて居り 汀女

葉がくれにさは肥えねども初茄子 蛇笏

庭畑の葉がちにみえて茄子垂る 蛇笏

夕暮の薄暗がりに茄子のぞき 虚子

茄子畑老いし従兄とうづくまり 三鬼

みのりそむ茄子のひろ葉こむらさき 蛇笏

犬の背で濡手拭ひて茄子を買ふ 楸邨

もぎたての茄子の紺や籠に満てり 立子

茄子生るや未だ未来に非ざるも 耕衣

初茄子や人から遠い時を行く 耕衣