和歌と俳句

西東三鬼

国飢ゑたりわれも立ち見る冬の虹

寒燈の一つ一つよ国敗れ

雪の町魚の大小血を垂るる

降る雪の薄ら明りに夜の旗

中年や独語おどろくの坂

美しき寒夜の影を別ちけり

春雷の下に氷塊来て並ぶ

大仏殿いでてにあたたまる

志賀直哉あゆみし道の蝸牛

薔薇を剪り刺をののしる誕生日

梅雨ちかき奈良を仏の中に寐る

卓上にけしは実となる夜の顔

梅雨の日のただよひありぬ油坂

塔中や額に青き雨落つる

青き奈良の仏に辿りつきにけり

おそるべき君等の乳房夏来る

茄子畑老いし従兄とうづくまり

中年や遠くみのれる夜の桃

老年の口笛涼し青三日月

穀象の群を天より見るごとく

穀象に大小ありてああ急ぐ

穀象の一匹だにもふりむかず

昼三日月蜥蜴もんどり打つて無し

中年やよろめき出づる昼寐

浮浪児のみな遠き眼にの船