西東三鬼
朝の飢ラヂオの琴の絶えしより
飢ゑてみな親しき野分遠くより
秋天をゆきにし島の跡のこる
男・女良夜の水をとび越えし
焼跡に秋耕の顔みなおなじ
秋風や一本の焼けし橋の遠さ
秋の暮遠きところにピアノ弾く
みな大き袋を負へり雁渡る
秋耕のおのれの影を掘起す
老年や月下の森に面の舞
露暗き石の舞台に老の舞
舞の面われに向くとき秋の夜
能の面秋の真闇の方へ去る
稲雀五重の塔を出発す
枯蓮のうごく時きてみなうごく
胡坐居て熟柿を啜る心の喪
柿むく手母のごとくに柿をむく
百舌の声豆腐にひびくそれを切る
竹伐り置く唐招提寺門前に
落穂拾ふ顔を地に伏せ手を垂れて
倒れたる案山子の顔の上に天