和歌と俳句

西東三鬼

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夏涸れの河へ機関車湯を垂らす

病院の奥へ氷塊引きずり込む

男の顔なり炎天の遠き窓

働くや根のみのを地の上に

の声の糸引く声が鉄壁へ

の航一尾の魚も現れず

月明の船中透る母呼ぶ声

真白海渡りきて子規拝む

ふるさとの草田男向うへ急ぐ

岩山に風ぶつかれり歯でむく

秋の雨直下はるかの海濡らす

夜光虫の水尾へ若者乙女の唄

飛行音に硝子よごるる北の風

青年は井戸で水飲む百舌鳥叫ぶ

枯野の日職場出できし顔にさす

枯野の縁に熱きうどんを吹き啜る

蜘蛛の糸の黄金消えし冬の暮

草枯るる真夜中何を呼ぶ犬ぞ

荒壁を押し塗る男枯野の日

握りめし食う枯枝に帽子掛け

枯野の中独楽宙とんで掌に戻る

月光の枯野を前に嘔き尽す

寒夜明け赤い造花が又も在る

鉄道の大彎曲や横飛ぶ雪

吹雪く中北の呼ぶ声汽車走る

墓のつかみ啖いて若者よ

鏡餅暗きところに割れて坐す

夜の馬俯向き眠る雪の廓

北海の星につながり氷柱太る

変な岩をが打つて薄日さす

びしよぬれの雪塊浮べ黒き河

の中コンクリートの中医師走る

朝の氷が夕べの氷老太陽

女あたたか氷柱の雫くぐり出て

硬き土みつめての牛あるく

寝るに手をこまねくの声の中

薄氷の裏を舐めては金魚沈む