和歌と俳句

西東三鬼

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ヨット出発女子大生のピストルに

潮垂らす後頭ヨットに弓反りに

大学生襤褸干す五月の潮しぼり

ヨット混雑海の中にも赤旗立つ

大南風赤きヨットに集中す

女のヨット内湾に入り安定す

猫一族の音なき出入りの家

うつむく母あおむく赤子稲光

夏落葉亡ぶよ煙なき焔

熱砂に背を擦る犬天に四肢もだえ

暑き舌犬と垂らして言わず聞かず

産みし子と肌密着し海に入る

老いざるは不具か礁に髪焦げて

炎天に一筋涼し猫の殺気

昼寝覚凹凸おなじ顔洗う

近づく濤が若者さし上げる

海から誕生光る水着に肉まつり

夜の深さ風の黒さに泳ぐ声

暗い沖へ手あげ爪立ち盆踊

地を蹴って掴む鉄棒帰燕あまた

東京タワーといふ昆虫の灯の呼吸

洞窟に湛え忘却の水澄めり

死火山麓かまきり顔をねじむけて

草食の妻秋風に肥汲むや

いわし雲人はどこでも土平す

麹干しつつ口のも運ぶ旧街道

陸稲刈るにも赤き帯紺がすり

臀丸き妻の脱穀ベルト張り

犬連れて沼田の稲架を裸にす

ひつじ田の水の太陽げに円し

東西より道来て消えしの秋

千の鴨木がくれに曇りつつ

蜂につかれ赤シャツ逃げる枯芦原

雲はしずかに明治芝居の野菊咲く

鳶ちぎれ飛ぶ逆撫での野分山

渚来る胸の豊隆秋の暮

秋の暮大魚の骨を海が引く

大鉄塔の秋雨しずく首を打つ

木の男根鬱々秋の小社に

亡妻恋いの涙時雨の禿げあたま

病む美女に船みな消ゆる秋の暮

濃き汗を拭いて男の仮面剥げし

足跡焼く晩夏の浜に火を焚きて

沖へ歩け晩夏の浜の黒洋傘

吹く風に細き裸の狐花