和歌と俳句

鰯雲

なつかしや松の木の間のいわしぐも 万太郎

鰯雲野に上棟の酒を酌む 秋櫻子

鰯雲日本に死すること辞せず 誓子

枝の蛇そのまた上の鰯雲 三鬼

なまなかの鰯雲なり見捨てたり 草田男

鰯雲網子の一生はてしらず 青畝

船音は遠きにさだか鰯雲 汀女

鰯雲岩屏立す彼方かな 汀女

鰯雲小舟けなげの頭をもたげ 三鬼

いわし雲山塊厚く空うすし 秋櫻子

いわし雲何重たさや旅鞄 汀女

高野より雲加はりて鰯雲 誓子

汝が舅言葉あたたかいわし雲 三鬼

ビール樽ころがしゆくや鰯雲 万太郎

猫けふで三日かへらず鰯雲 万太郎

いわし雲人はどこでも土平す 三鬼

いわし雲折れきらら波女一人 三鬼

鰯雲鼻の孤独の極まるなり 楸邨

鰯雲船乗り君は船へ帰る 波郷

いわし雲想ひ幼き日にのみに 汀女

もう著いてゐる刻かとも鰯雲 立子

海上に出づ鰯雲ことごとく 林火

鰯雲湯を出し顔に見上げゆく 林火

蜻蛉はや高きをすすみ鰯雲 青畝

清拭の痩脛たてりいわしぐも 波郷

森の樹々緻かに葉見ゆいわしぐも 波郷

岬に彳つは流離のはじめ鰯雲 双魚

いわし雲僧形文部省に入る 爽雨

しんがりの子に風の吹く鰯雲 双魚

鰯雲粛々と延ぶいのちなが 林火

空一杯鰯雲なり夢の中 みどり女