餅を売る大原女の顔花篝
汐鳴のこひしさに買ふ水雲かな
花下独坐このまま死ぬることあらむ
障子無き離れ座敷の牡丹かな
函入の伊勢物語在五の忌
佐理の字を写さむとおもふ扇子かな
草矢飛べ淡き夕の道の児に
踏まれたる麦藁籠の口が開く
蝶涼し一言主の嶺を駈くる
有馬の湯しづかなるとき妻も裸女
夏の日や鍼のごとくに滝しぶき
湖の霧に納涼提灯おちつかず
漆喰の漁家に七夕まつりけり
踊姫衣を擲つを照らしをる
どの谿となくかなかなの夕谺
大佛の大鐘見ゆる良夜かな
蜻蛉はや高きをすすみ鰯雲
唐辛子烈士紫色の血を遺す
翁忌の今こそ銀杏かがやけり
しぐれ待つ心に似たり仏の灯
温めし酒うちこぼし膝匂ふ
色ケ浜霰とぶ冬迫りけり
都督府の道にとんどの名残の火
狩の宿へんろのみちの淋しさに
肥の国の藺苗挿す田に火を恋へり
注連作遷宮の沙汰待ちながら