和歌と俳句

阿波野青畝

旅塵を払ふ

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吹降りにさからふ飛燕最上川

さかのぼる卯浪を見よや最上川

ほそぼそと羽の國ぶりの畦を塗る

化粧鍬あてて水口祭りけり

よく撥ねる流の鱒や額の花

速玉の森に火こもるかな

鈴の如河鹿天下や枕許

日の盛中堂の燈はとほきもの

一俵の備長炭や土用丑

化粧ひたる踊子わたり橋躍る

嵯峨日記このかた嵯峨は夜の長さ

秋の旅新羅百済に佛あり

こほろぎや百済古国磚遺す

これこそは新羅の遺塔野菊見る

雁の雨城楼は江をふさぐなり

秋風に追はれ顔なるみちをしへ

老友の欠けしと泣きぬ十三夜

鵯鳥の嘴ふかき熟柿かな

冬雲雀干拓の天さへぎらず

金の箔み空を散らすいてふかな

ふぶきゆくいてふの金の光かな

おでん屋の看板ごろの暗さかな

世は古りぬ助炭もやぶれたるままに

山始三輪明神は斧知らず

百姓の拍手固し土の春

刀匠の槌を打ちだす恵方かな