和歌と俳句

阿波野青畝

旅塵を払ふ

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海の日のつるべ落しや親不知

北國の帰燕かぞふるほど居らず

沈没の簗あり人を寄らしめず

翡翠研ぐ石冷やかに割れにけり

木像の尊氏の目に秋日落つ

汝が蹴るを我が蹴りかへす木の実かな

省かねばならぬ品々冬支度

幹細し朴は落葉を離さざる

枯蓬伊吹の颪すままにあり

来しと余呉湖の鴉さわぎけり

藍甕のつぶやく宵やつづれさせ

老の歯の一本強し薬食

飾海老朱竹の軸を掛けにけり

踏みてすとんと脛を没しけり

紅梅も今は枯木の仲間かな

流し雛珊瑚花咲く潮を恋ふ

花烏賊の墨の洪水さと流す

出雲路へ五形濃くなりつつ咲きぬ

春暁や一点燈の大伽藍

代掻の一日おけば澄みわたり

大輪のゆるめば牡丹寧からず

乗物のみちのわるさやみちをしへ

住吉の砂の音聞く茅の輪かな

渋民の歌の風鈴チンと先づ

無明より再びかへすかな