和歌と俳句

阿波野青畝

旅塵を払ふ

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巌頭に五大堂立つ安居かな

万緑を深くぞゑぐる谷と谷

草笛や巫女を姉とし吹き習ふ

夢枕多美子ならずや濃紫陽花

蝙蝠や袋の町の関ケ原

亡者らを白く塗りたる閻魔かな

忍冬の神の噴井を司る

踊笠二つにたたみ縁に腰

もの抛るどぶの音しぬ地蔵盆

もしか地震ならばの九月来たりけり

丘つづく大和の國の良夜かな

野葡萄にしがみつかれて竹屈す

後南朝のちひさき寺や秋の暮

涙目のごとし入江の夜寒の灯

義経の抜けけむ山の粧ひぬ

黄落を妨げず松天に伸ぶ

日あたれば黄を撒きあげて銀杏散る

冬の山粧へる隈残しけり

白菜の霜げて穢土のものとなる

門前の焚火の話僧知らず

水煙の飛天冬三日月に失せ

小竹の葉の反す日厳し避寒宿

ワイパーも今は必死の吹雪かな

天照らす雛の宴と灯りたり

坊が妻とろろ召せといふ西行忌