和歌と俳句

夜寒

子の床によりて句作の夜寒かな かな女

線香の煙の龍の夜寒かな 喜舟

灯あかるき大路に出たる夜寒かな 虚子

拍子木を壁につるして夜寒門 野風呂

おとづれの名刺の白き夜寒かな 草城

六甲の裏の夜寒の有馬の湯 虚子

佛壇や夜寒の香のおとろふる 蛇笏

寝がへれば骨の音する夜寒かな 三鬼

おしろいの香のあたたかき夜寒かな 草城

吾子の本皆片づけて夜寒かな みどり女

戒名をことづかりたる夜寒かな 万太郎

あはれ子の夜寒の床の引けば寄る 汀女

みちのくの夜寒けはしく来し灯かな 汀女

戦況ニュースきく膝触るゝ夜寒かな 

渋川や四万へ伊香保へ夜寒人 たかし

伊香保の灯見えて夜寒や榛名山 たかし

夜寒来て関門の朝あたたかく 汀女

にはかなるミシン踏み出す夜寒かな 汀女

歩きもす夜寒の子等の枕上 汀女

泣きつつぞ鉛筆削る吾子夜寒 楸邨

夜寒の戸熊手をつくる灯のみえぬ 麦南

少女歌劇見戻るに忽と夜寒かな 友二

提灯に顔のぞかるゝ夜寒かな 占魚

紙をたつ薄刃さばける夜寒かな 占魚

角箸の灯をあつめたる夜寒かな 占魚

停車場に夜寒の子守旅の我 虚子

夜寒の戸締めに立ちゆく独言 立子

遙かなるものばかりなる夜寒かな 波郷