和歌と俳句

石田波郷

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かりがねのきのふの夕とわかちなし

かりがねやのこるものみな美しき

鶏頭に隠るる如し昼の酒

秋風の吹くこそ楽し酒の中

鶏頭の夜を照らされて常ならね

芋の秋七番日記読み得るや

出発つや疾風の如く稲雀

夕富士をみつむる顔や秋の風

秋の夜のオリオン低し胸の上

朝寒の鷺の小膝の水皺かな

白露の山河ことごとく別るなり

輸送車のとまる萩咲きさだまりぬ

葛咲くや父母は見ずて征果てむ

海の日や葛の陸山露燦と

露寒や罎をさげゆくただの人

秋晴や御勅論誦す貨車の中

水色は発破かけてる秋のくれ

朝霧に勵家は何の鐡を打つ

秋晴の麺麭食こぼす膝あはれ

秋風や夢の如くに棗の実

朝顔に風も吹かずよ草の中

朝寒の月暈きたり榮あれや

わが胸の骨息づくやきりぎりす

新涼や鳩の接吻日浴びそむ

遙かなるものばかりなる夜寒かな

雲幾重風樹幾群秋ふかむ

八重葎露こぞりたる彼岸かな

秋晴の増えし體重幾瓩ぞ

耳鳴につづきて残る晝の蟲

芋好きのわれに芋好きの妻子あり

朝寒の豆腐夜寒の豆腐かな

犬喰つて小夜寝がてなり秋の風

秋の夜の俳諧燃ゆる思かな

秋の夜の憤ろしき何々ぞ

秋の風萬の祷を汝一人に

うそ寒く落雁食ふ父と知れよ

秋の夜や落雁低し胸やけて

老父の手の笊見よや山椒の實

新米や佛飯の數昔ながら

飛雪来やこの秋菊を見ざりけり

明治節ふしどを換へて病めりけり