茂吉
雲のなかにあまつかりがね啼くときの暗き河原を過ぎにけるかも
雁ないて看護婦石となりにけり 桃史
影法師動くことなし雁渡る 桃史
雁なけり医師の眼鏡が壁にある 桃史
雁なけり母の瞳を目にとらふ 桃史
雁ないて額に月の来てゐたり 桃史
雁わたり幽霊の絵をかけながす 槐太
雁仰ぐ傘傾けて雨もやみ 風生
雁わたり手足を北にしてねむる 誓子
原をゆきわれたる雁をふりあふぐ 素逝
友をはふりなみだせし目に雁たかく 素逝
雁たかく空のひかりの中をゆく 素逝
雁わたり或日思ひしごとくなる 楸邨
小波の如くに雁の遠くなる みどり女
渡り過ぐ雁見むと泳ぐ三田の坂 友二
陸の上に遅るこゑごゑ雁わたる 誓子
かりがねのこゑするたびに吾を隔つ 誓子
ゆく雁の眼に見えずしてとどまらず 誓子
ゆく雁のこゑあとさきに落ちて過ぐ 誓子
雁のこゑすべて月下を過ぎ終る 誓子
さびしさを日日のいのちぞ雁わたる 多佳子
午後五時の道玄坂や雁わたる 楸邨
雁わたり泊船蘆花に帆を下ろす 秋櫻子
雁わたる三田に古りたる庇かな 波郷
浮碧楼しきりに雁の落つるなり 青畝
雁の棹枯木の上に一文字 素十
かりがねのきのふの夕とわかちなし 波郷
かりがねやのこるものみな美しき 波郷
雁行や駅東海に到るべく 誓子
雁のれつわが家をないて海に出づ 誓子
雁わたる海なき県を海に出で 誓子
わたる雁河原を天に横切りたり 誓子
鋳物の火雁鳴く夜空焦がしたり 林火
月よぎるけむりのごとく雁の列 林火