和歌と俳句

橋本多佳子

長崎の暗き橋ゆき遠花火

あかつきの舷燈よごれをゆく

いなびかり想ひはまたもくりかへす

火のまつりくらき燈火を家に吊り

火祭の戸毎ぞ荒らぶ火に仕ふ

いなづまに落葉松の幹たちならぶ

虫の声かさなり四方の野より来る

ひとりゐて露けき星をふりかぶる

ひとの肩蟋蟀の声流れゐる

啼けりひとと在る時かくて過ぐ

霧降れば霧に炉を焚きいのち護る

霧の中おのが身細き吾亦紅

十六夜はわが寝る刻を草に照る

ひと去りしいなづまの夜ぞ母子の夜

ひとの子を濃霧にかへす吾亦紅

露の楢夜はわが燈に幹ぬれて

母と子に夜も木の実の落ちしきる

黒姫も落暉負ふ山燕去る

白露や花を尽さぬ鳥かぶと

いわし雲忌日きのふに過ぎゆける

さびしさを日日のいのちぞわたる

睡られぬ月明き夜のつづくなる

硯洗ふ墨あをあをと流れけり

草照りて十六夜雲を離れたり

あさがほや家をめぐりて十数歩

鳥兜花尽さぬに我等去る