和歌と俳句

橋本多佳子

白露やわが在りし椅子あたゝかに

荒百舌鳥や涙たまれば泣きにけり

百舌鳥の下みな雨ぬれし墓ばかり

墓と共に花野に隠れゐたかりし

傘いつも前風ふせぎ雨の百舌鳥

秋風や鶺鴒二つ飛びたる日

断崖や激しき百舌鳥に支へられ

老いよとや赤き林檎を掌に享くる

鶏頭起きる野分の地より艶然と

伏目に読む睫毛幼し育つ

露の中つむじ二つを子が戴く

白露や鋼の如き香をもてり

露けき中竃火胸にもえつづけ

虫鳴く中露置く中夫死なせし

露霜や死まで黒髪大切に

椎の実の見えざれど竿うてば落つ

沼の上に来て二星の逢ひにけり

七夕流す沼水流れざるものを

いそぐほど銀河の流れさからひて

秋風にあさがほひらく紺張りて

髪を梳きうつむくときのちちろ虫

ぬれ髪にちちろは何を告げゐるや

吾に近き波はいそげり秋の川

秋風に筝をよこたふ戦経て

三日月に死の家ありて水を打つ

霧月夜美しくして一夜ぎり