和歌と俳句

橋本多佳子

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里びとは北しぐれとぞいひつ濡れ

凩の天鳴り壁の炉が鳴れり

吾子そろひ凩の夜の炉がもゆる

スケートの面粉雪にゆき向ふ

スケートの汗ばみし顔なほ周る

雪去れりスケートリンク天と碧き

煖炉もえ末子は父のひざにある

ひとりゐて落ちたる椿燻べし炉火

雪しまきわが喪の髪はみだれたり

吹雪きて天も地もなき火の葬り

船室より北風の檣の作業みゆ

枯園に聖母の瞳碧をたたへ

ただ黒き裳すそを枯るる野にひけり

夫の手に壁炉の榾火たきつがれ

寒の星昴けぶるに眼をこらす

枯木鳴り耀く星座かかげたる

壁炉もえ主なき椅子の炉にむかひ

吾子とゐて父なきまどゐ壁炉もえ

壁炉照り吾子亡き父の椅子にゐる

われのみの夜ぞ更けまさり炉火をつぐ

惜しみなく炉火焚かれたり雪降り来る

黒き舷船名もなく雪に繋る

雪を航き朝餐のぬくきパンちぎる

航海燈かがやき雪の帆綱垂る

雪を航きひとりの船室燈をともす