橋本多佳子
綿虫とぶものに触れなばすぐ壊えん
頭も見せず蒲団を被れば一切消ゆ
折ればわがもの冬ばらと園を出る
脚抱きて死にきれぬ蜂掃き出せり
一冬の玩具熊に木の切れつ端
冬兎身の大の穴いくつも掘り
寒肥の大地雪片ふりやまず
もがり笛厚扉厚壁くぐり来る
亡き夫顕つごと焚火あたたかし
金魚池水輪もたてず雪ふりて
神楽ひよつとこ神楽おかめの惚れ手振り
神楽の世をんなおかめの妬き手振り
泣きじやくる神楽おかめの笑ひ面
年迎ふ櫛の歯ふかく髪梳きて
除夜の鐘打ちつぎ百を越えんとす
除夜の鐘大切なこの歳を病み
火を恋ふは焔恋ふなり落葉焚き
猟銃音わが山何を失ひし
銃音圏逃げる翼の生きる翼
雉子置きしところにその香とどこほる
雉子料るつめたき水に刃をぬらし
つよき香の雉子食ふいのち延ばすとて
雉子食ふや外の暗黒締切つて
暮れ土に雉子の羽毛の一羽分
雪降る中髪洗ひたる顔あげる
またたくは燃え尽きる燭凍神将
少年の冒険獲もの一氷片
氷塊の深部の傷が日を反す
寒燈を当つ神将の咽喉ぼとけ
オリオンが方形結ぶ野火余燼
山焼きし余燼もなしや天狼下
なんといふ暗さ万燈顧る
万燈道けものの匂ひかたまり過ぐ
万燈会廻套利玄とすれちがふ
入院車ゆきて深々雪轍
雪はげし化粧はむとする真顔して
雪映えの髪梳くいのちいのりつつ
雪の日の浴身一指一趾愛し
雪はげし書き遺すこと何ぞ多き